デパート古書市/釣りと魚の本

真夏の週末にだんさんが家にいる(=釣りに行ってない)という希有な状況の下、二人で新宿の京王デパートの古書市へ行ってきました。 毎年恒例(第62回ですって!)の催し物ですが、実際にでかけるのは何年ぶりか。 電子書籍の時代でもあり、古書もネットで…

要約できない、してはいけない──『菜の花の海辺から』・終章

5月10日、21日の日記に書いた 『菜の花の海辺から』(上・下)ですが、下巻の最後にある「終章」について少し。 「終章・そしてなにが残ったか──原告患者の語る四日市の戦後史──」には、四日市ぜんそく裁判の原告の一人、野田之一氏の語った言葉が、おそらく…

社会的正義、行政の恥──『菜の花の海辺から』(下)

5月10日の日記で書いた『菜の花の海辺から〈上巻〉評伝・田中覚』に続き、四日市において公害がどのように規制されていったか、吉田克己教授らと行政の現場の悪戦苦闘を描いた下巻から引用。 彼[=当時の三重大学医学部教授・吉田克己氏]をつき動かしたも…

食うための経済と生きるための環境──『菜の花の海辺から』(上)

『菜の花の海辺から〈上巻〉評伝・田中覚』より引用。*1 高度成長と公害を渦中で体験してきた企業人の言葉である。それは、学者や研究者ではなく、企業人の体得した思想として大きな意味がある。私は、食うための経済と生きるための環境、その関係を決定し調…

『奇蹟』中上健次

たまたま古書店で見つけた『奇蹟』を、このあいだから読み始めました。再読です。 某週刊誌に連載中は小学生になったばかりでしたから(嘘)、ずいぶんと久しぶりです。 冒頭近く、産婆のオリュウノオバが、タイチを取り上げる場面。 …女の腹を蹴って生まれ…

イワナの謎を追う

動物生態学に基づき、北海道のアメマスとオショロコマを中心に、棲み分けや競争について考察…とか言うとカタイですが、生き生きとした好奇心でいっぱいの著者の人柄がにじみ出て、とても楽しい読み物になっています。 1984年初版の古い本ながら、まったく古…

ゆく河の流れは絶えずして─「動的平衡」

生命は「ゆく河の流れは絶えずして しかももとの水にあらず」みたいなものだという話が書いてある本。ソトコトなどに連載されたものをまとめたものだそうです。 文章中に「ゆく河の…」*1が出てくるわけではありませんが。 著者は、軽く読める科学読み物が上…

平家物語(四)

来年のNHK大河が平清盛だと聞いて、なんとなく久しぶりに平家物語を持って出ました。 平家物語好きなんでついつい……講談社学術文庫(底本は覚一本)、「信連」の段がある4巻目を。 信連なんて、ドラマには出てこないだろうなとは思いますが。 高倉宮を警備す…

ちょっと思い直し

おととい書いた川の本のこと、「待てよ」と、少し思い直しまして。 新たにある川の「自然」の項(建設省担当部分)を読んだところ、この著者は、地勢、気象などの、いわゆる「自然」部分と、「治水」の部分とをきちんと分け、整理して書いてました。用字の誤…

体裁・成果・権威

よく誤字を見つけるタチです。 見ようによってはいやな性質で、特技と言うつもりはありません。一種の職業病だと思います。 仕事以外なら「見つけてもさらっと流す」普通の対応をします。 個人が個人の立場でネット上に書くものなどは、たいていの場合、誤り…

「ああ、この身はわたしじゃない」

確か6月末あたりから読み始めた『市民社会とは何か』を、まだ読んでいます。あと少し。 しかし近頃、本を読むたびに感じることは、自分の教養の土台が泣けるほど貧弱である、ということ。いや、教養なんか、ほぼなかったんだな。幻想だった。 この本一冊を読…

市民社会とは何か

震災後、ネット上で「市民」という言葉がやな感じで使われる場面をちょいちょい見かけます。 今後この国の人が「市民」意識が持てるかどうかって、かなり重要だと思います。 その時期に、この嫌悪感はなんなんだか。 使われ方として、よそもの嫌いにも通じる…

閉じた本/青い野を歩く

近頃読んだ本で、思い出せた2冊。 『閉じた本』は語りの詐術でサスペンスを誘うタイプだから、叙述トリックミステリの一種かもしれません。 が、元祖『アクロイド殺人事件』などに比べると、いまひとつ低レベルな感は否めない、と思います。 簡単に裏が読め…

灯台守の話

これはまさしく物語、としか言いようがない物語。「物語」のない「小説」にあまり興味のない私には、思いがけず出会った御馳走のようでした。 あらすじは…母を失って灯台守のところへ少女シルバーが…なんて、語るのがむなしい気がします。なんでかな。 物語…

グレイス・ペイリーの短編集2冊

村上春樹氏がぞっこん惚れ込んで翻訳したという、アメリカの女性作家の短編集2つ。村上作品を読んだことがない私には「なるほど」と思うことはできませんが。 『人生のちょっとした煩い』の方は面白かったですよ。これといったことが起こるわけじゃないけど…

荒野へ

近頃、文明とか経済とか科学とかをぼーっと考えてて、なぜかこの本を思い出しました。ずいぶん前に読んだ本です。 簡単に言うと、アメリカの裕福な家庭に生まれ育った青年が、大学卒業後、突然アラスカへ放浪の旅に出て、最後は餓死した、というノンフィクシ…

『東京日記』(リチャード・ブローティガン詩集)

このごろなんとなく『東京日記』を持ち歩いています。 『東京日記』は、1976年5月に来日したブローティガンが、東京を題材に書いた詩集です。 ブローティガンって弱い人、どっちかっていうとダメな人で、その詩も人の心を鼓舞するようなものではありません。…

川漁師 神々しき奥義

日本の川は、テレビなどでしょっちゅう美しい映像を映すような有名な「清流」でも、かなり危機的な状況だと思ってます。 まだ大丈夫だろうと高をくくっていたぶっていると、自然というのは、あっという間に壊れ去るものかもしれないですよ。 川に寄り添い、…

社会的共通資本としての川

「自動車の社会的費用」の著者でもある宇沢氏と、河川工学博士の大熊氏が中心となり、複数の方々の川に対するさまざまなアプローチを、「社会的共通資本」という考え方を軸にまとめた本。 タイトルは地味だし、450ページ近くあるし、東京大学出版会だしで、…

身体にきく―「体癖」を活かす整体法

野口晴哉の整体理論に基づき、自分で自分の体の癖を知り、調子を整える術をわかりやすく説いた本。野口晴哉の本は読んでもいまいちわかりにくかったりするので、これはよい本だと思います。*1 仰向けに寝て腰椎を整える動作など、就寝前にやると、明らかに寝…

原始の神社をもとめて―日本・琉球・済州島

韓国の堂(タン)、沖縄の御嶽(うたき)など、いわゆる神社のルーツを巡る旅と考察の本。 私は堂も御嶽も見たことがないですが、なるほど神社の原初のかたちはこうだったかもと思わせる、興味深い内容でした。 私の祖父はとある小さな神社の神職で、山奥に…

森林の思考・砂漠の思考

砂漠で生まれた一神教的思考と森林に育まれた多神教的思考との比較。 現代の人間は地球上を大きく移動することができるけれど、風土というものと分かちがたく結びついているものだなと、改めて思いました。 しかし、日本は「砂漠化」しているという著者の指…

絶対製造工場

あらゆるものに封じ込められた「絶対=神様」を解放してしまう機械、「カルブラートル」が発明され、混乱する世界を描いたSF。 面白いのは、A派が信じる真理とB派が信じる真理が、本当は同じもののはずなのに(なにせ「絶対」ですから)、しばしばぶつかると…

おっぱいとトラクター

80過ぎのおじいちゃんが、ウクライナから来たグラマラスな若い美女と結婚すると言い出し、娘2人とドタバタ劇を演じる物語…ながら、その背景にはウクライナの厳しい現実があり…みたいな本です。 正直言いますと、これ、途中で投げ出しました。珍しいことなん…

黒猫ネロの帰郷

イタリアのやんちゃ猫ネロが、ドイツから遊びに来た夫婦と共にドイツへ行って、何年か後に帰ってくる、というだけの話。ですが、猫として猫の生をきっちり生きるネロに、ヒトとして忘れかけたことを思い出させられます。 ふんだんに挿絵もあり、絵本のような…

めまい

ヒッチコックの同名映画の原作。映画とは少し設定や趣が異なります。 著者のポワロー=ナルスジャックは、ディープなアルセーヌ・ルパンのファン*1 にとっては忘れられない名前です。「アルセーヌ・ルパン」の変名で、モーリス・ルブランに成り代わり、アル…

伊勢発見

新聞に連載された文章をまとめた本。タイトルは「伊勢」ながら、熊野にも多くページを割いています。 戦国時代に長く途絶えていたお伊勢さん*1 の遷宮*2を復活させたのが仏教の人々だったという話には「なるほど」と思いました。 というのは、お伊勢さんに年…

さよなら、アルマ

第二次世界大戦に軍用犬となったシェパード・アルマの一生を描いた小説。 犬好きのだんさんに読ませたら、案の定泣いたそうです。だんさんは子供の頃、犬と一緒に育ったような人なので。 私など、冒頭の見開きイラスト見ただけでくすんくすん泣きましたよ。…

二酸化炭素温暖化説の崩壊

10ページ目にして、「実は、この日本に生きている九九パーセントの人は、気象庁が公表して、インターネット上で『誰でも調べることができる』気温データを調べたことはない」という一文が登場。ここでおやおやと思いました。 99パーセントって??? 内容的…

謎のヴァイオリン

グァルネリ・デル・ジェズと思われる謎のバイオリンを巡る冒険? …なんですが、話の途中で、謎解きがあっさり済んでしまいます。あとは、すべてわかっている顔の主人公が、ヴァイオリンをさらっと取り戻すだけ。 どうも、裏社会にまったく縁のない育ちの良い…