体裁・成果・権威

よく誤字を見つけるタチです。
見ようによってはいやな性質で、特技と言うつもりはありません。一種の職業病だと思います。


仕事以外なら「見つけてもさらっと流す」普通の対応をします。
個人が個人の立場でネット上に書くものなどは、たいていの場合、誤りも人間味のうちと思います。自分でもよく間違えるし(すみません私のことは見逃してください)。


と前置きしておいて、今日は他人の誤りをしれっと言いふらしますよ。


古い本です。23年前に発行された、川関連の全集の中の1冊です。一応市販の書籍です。
今のところ、いちばんひどい誤字はこれでしょうか。


このほかに、地名の誤り、記号の使い方の誤り、漢数字表記の不統一、用字用語の不統一、組版のセオリー破り(奇数ページの最終行に見出しがある等)など、突っ込みどころの多い本です。


この本、実は、内容の半分は建設省(当時・以下「建設省」で通します)が書いています。
いくつかの川について、それぞれ「自然」と「民俗」に分けた記述があり、「自然」の部の担当が建設省です。


全体の4分の1程度を読んだところで、地名の誤りが2カ所。どちらも建設省担当の部分です。
用字用語の不統一などは編集者の恥としても、地名の誤りは著者に責任があります。
しかも、誤り2カ所のうち1つは沼の名称、もう1つは川の名称でした。
河川行政の担当者が、管轄する川や沼の名前を間違えてちゃだめでしょう。


こうなると、ほかの部分まであやしく見えてきます。
随所に出てくる「計画流量○○立方メートル/秒」「堤防延長○○キロメートル」といった数字が、「一ケタ違ってた」「二〇〇〇が三〇〇〇になってた」ってことも、あるかもしれません。


ここからは、この本の私的な印象。


前述のとおり、いくつかの川について、それぞれ「自然」と「民俗」に分けて書かれている本です。
「民俗」の部は学者先生方が書いていて、伝統漁法や河童伝説など、興味深く面白い内容です。
だから、正確に言うと、「自然」の部、建設省担当の部分の印象。


建設省にとって、日本の河川の「自然」とは、「人が手を加えてキレイにならした川」を指すのか。そんな印象です。
インフラ建設をつかさどる官庁の書くことだから、建造物の計画・立案、進捗状況、実績といった話になるのは当然としても、そこに「自然」というタイトルを付ける感覚が、どうしても私にはわかりません。
その感覚は私の常識から遠くかけ離れていて、はっきり言って変だと感じます。


ここからは、私のうがった見方。


そういった変な感覚は、この本の存在そのものに、にじみ出ているようです。
箱のついた上製本(硬い表紙の製本)に金箔を押した立派な「体裁」を整え、何巻かを並べて全集とする。
中身に多少の誤りがあろうが、できてしまえば立派な「成果」。
この全集の名は『日本の川』といいます。日本の川のすべてが書かれているみたいな名前です。そんな全集本を監修した官庁(=建設省)こそ、日本の川の「権威」であると言いたげです。


川に大きなダムや堤防のような構造物を造ろうとするとき、その川の流域の人々の幸福に役に立つかどうかよりも、「体裁」を整えて「成果」をあげ、「権威」となることが目的になってたりしないでしょうか。