荒野へ




近頃、文明とか経済とか科学とかをぼーっと考えてて、なぜかこの本を思い出しました。ずいぶん前に読んだ本です。


簡単に言うと、アメリカの裕福な家庭に生まれ育った青年が、大学卒業後、突然アラスカへ放浪の旅に出て、最後は餓死した、というノンフィクション。
主人公の青年クリストファー・マッカンドレスに関しては、WIKIPEDIAに記述とセルフポートレートがあります(英語)。


さぞやワイルドな物語…と思えばそうでもない。
一番最初に「ん?」と思ったのは、遺品の中に「コルゲート」があった、というところでした。確か。


コルゲートといえば、アメリカでは歯磨き粉の代名詞とか。
荒野に入って、採取や狩猟で食べていくぞと決意した青年が、コルゲートを持っていた。
歯磨き粉持ってたから死んだわけじゃないけど、要は、自分では気がつかないほど根っから文明人だったってことの、象徴みたいな感じがしました。


飢えや寒さや、いろいろな不便さは、当然予測していたでしょう。でも、アラスカの荒野は想像以上だった。
さらに、彼が亡くなった場所は、結果として、それほどの「荒野」でもなかったのです。
亡くなったのは放置されたバスの中でしたが、その場所から少し歩けば、人に助けを求めることもできたようです。彼は助けを求めたくなかったわけではなくて、その場所がそんな位置にあると把握してなかっただけらしい。


ばかばかしいと言えば、あまりにばかばかしい命の落とし方。


けれど、クリストファー青年の気持ちはよくわかる。
少なくとも彼は、自分の文明生活を捨てようとした。自分の属する社会のやり方を否定したんです。豊かな時代に育った青年には、なかなかできることじゃないでしょうよ。
帰る場所を捨てることなく、ちょびっとワイルドなアウトドア生活を満喫しにいくのとは、根本的に違う。


ばかばかしいけれども真っ直ぐ。青年なんて、昔はそういうものでした。そして、青年の直情ほど、見てて恥ずかしいものはないですね。


そのせいか、得てしてそういう人は揶揄されがちだけれども、ほんとに恥ずかしいのは、実はどうしようもなく真っ直ぐな自分を隠して、小ずるく小賢しく立ち回ろうとすることじゃないかしら。