千曲川のサケ

10月20日、長野県上田市千曲川でサケが見つかったという報道がありました。メスのサケが、やなにかかって死んでいたそうです。


たった1尾です。
腹に卵はなく、産卵後らしいと。


たくさんサケが上る川はほかにあるのに、なぜたった1尾のサケがニュースになるかというと、上田市あたりの千曲川でサケが見つかったのが61年ぶり*1だからです。


昔は千曲川でもサケ漁をしたというほどたくさん遡上していたサケがいなくなった理由は、下流にダムができたことが大きいようです。
上田市から下流、長野県内にはいくつもの堰堤と西大滝ダム、新潟に入り信濃川と名を変えた先には宮中取水ダム、分流の大河津分水路には可動堰もあります。川を上る魚にとっては障害物競走状態です。


特に宮中取水ダム。ここはJR東日本が水利権を持ち、鉄道用に発電を行っているダムです。ところがJR東日本、10年間の長きにわたり、使った水を少なく報告してたんですね。これは違法行為ですから処分対象となりました。
いろいろともめたあげくに、大まかに言うと「地域共生策*2」を約束した上で、JR東日本は水利権を再申請。仮の許可が出たのが今年の4月でした。
その際、ダムから水を以前より多めに放水してみることにもなりました。

ところが08年秋、JR東日本がダムの取水量を少なく見せるように改ざんした不正プログラムを組み込んでいたことが発覚。国土交通省が09年3月に同社の水利権を取り消したことで川に一時的に水量が戻った。JR東は今年4月に水利権を再申請し、同省は暫定的に取水を認めたが、それまで最低毎秒7トンしか流していなかった下流に、今後5年間は毎秒40〜100トンの水を流し、自然環境への影響を調べることになっている。 (asahi.comより)


河川工学がご専門の教授も「こんなに早くサケの遡上に影響を与えるとは思ってもいなかった」そうです。水が流れるべきところに流れているとは、こういうことなんですね。


ただし、このサケは、自然繁殖したものではないようです。それも上田市あたりの漁協ではサケの放流はしてないそうで、もっと下流域で放流したものが、海で育って戻ってきたのだろうということでした。


まあ、日本でサケが自然に産卵して、ライフサイクルを完全に実現してる川なんて、ほんの少ししかないようですが。
たいていは、メスの腹から採った卵に、オスの精子をかけて人工受精させ、稚魚を放流します。漁協の方が、サケに来てほしいからと自腹を切って行っているところもあるようです。*3


そのうち何尾がその川に戻ってこられるのかわかりませんが、とりあえず戻ってきたとしても、河口を入ったところで捕らえられ、卵を採られ、精子をしぼられることが多いのが現実です。*4
放流したサケの一生って何だったんでしょうと思わずにはいられません。
懸命に戻ってきたふるさとの川は、サケにとってよい場所なんでしょうか。


構造物に阻まれずに、たっぷり水が流れる川で、産卵にふさわしい場所があれば、サケは群れをなして帰ってきて、短くも激しい恋?をし、子孫を残し、満足して燃え尽きるでしょう。サケだけじゃなく、遡上する魚やエビ、川に生きるものすべてが喜びに満ちて、いきいきと生きて死んでいくことができるでしょう。


うむ。擬人化しすぎでしょうかね。
しかし、新潟県信濃川河口から上田市千曲川までの200km以上を、一所懸命遡ってきた命の強さ尊さ美しさ。これは本物でしょ。

*1:信濃毎日新聞による。朝日新聞その他では65年。

*2:駅舎をきれいに改築してくれ、SLとか走らせて観光客呼んでくれ、みたいな。

*3:時に、誰がやってるのかは知りませんが、元々はサケが遡上しない川に、子どもを使って放流させ、マスコミに流して自然保護活動だと宣伝することもあるようです。これは愚かなことです。

*4:岩手県安家川に安家漁業協同組合が設置しているウライ施設なんて、気持ち悪いほど大規模でシステマチックです。