鉱滓ダム

先日、こんな事故がありました。

■未処理廃水が目屋ダムに流出

(2012年4月16日付東奥日報
 県は15日、西目屋村砂子瀬にある旧尾太(おっぷ)鉱山の廃水処理施設で、マンガン亜鉛などの重金属を含んだ未処理の廃水が流出し、目屋ダムのダム湖に流れ込んでいると発表した。廃水をためるピット(貯水槽)に砂が流れ込み、水があふれ出したのが原因。県商工政策課は「現時点では農業用水や生活用水への影響があるかどうか分からない」としている。


記事中の目屋ダムは、現在建設中の津軽ダムが完成すれば、その湖底に沈んでしまいます。
【参考】津軽ダム工事事務所HPダムに二度沈むマタギの村(東北学・東北地域学/中路正恒氏)川の日記(2010年11月25日)


同じく記事中の「旧尾太鉱山の廃水処理施設」を地図で見ます(この地図は画像ゆえ拡大縮小、移動はできません。→GoogleMapで見る)。
中央やや下に見える緑色部分が、旧尾太鉱山の鉱滓ダムと思われます。
地図に名前はありませんが「木戸ヶ沢」という沢に設けられているようです。
「旧尾太鉱山の廃水処理施設」が具体的にどんなものかは知りませんが、役割からいって、この鉱滓ダム付近にあると思われます。


鉱滓ダム(鉱滓の堆積場)は、地図上に何の表記もないのが普通です。ほとんど民間企業の所有でもあり、保安面からもイメージ面からも、表に出したくない施設だから?でしょうか。
鉱滓ダムは河川法でいう「ダム」には含まれませんが、谷筋を利用して造られ、地図上ではまさしくダムの形(アースダムっぽい)をしているものが多いです。


津軽ダム工事事務所HPに「木戸ヶ沢排水トンネル」というページがあります。
同ページによれば、津軽ダムができると、現在の目屋ダムより水位が上がり、鉱滓ダムの堤体(上の地図、中央の+印のあるあたり)が水に浸かるそうです。
そして、堤体が水に浸かって壊れたり、有害物質が流出したりしないように、現在よりさらに大きなコンクリート製の堤体(=木戸ヶ沢貯水池保全施設)を造るのだそうです。


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「鉱滓(こうさい or こうし)」は鉱石から金属を取り出した後に残るかすのようなもので、成分は鉱石によって異なりますが、時に有毒な物質が含まれます。


世に鉱山とそれに付属する鉱滓の堆積場はたくさんあるようですが、その位置や現状はなかなかわかりません(Wikipediaに「日本の鉱山の一覧」があります)。
事故があると、そこにそんなものがあったのだとわかったりします。


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2010年10月、ハンガリーでアルミニウム精錬工場の廃液貯水池の堤防決壊事故が起きました。大量の有毒廃液がのどかな村を飲み込み、人や家畜などの生命を奪い、ドナウ川にまで流れていきました。
貯水池の形などは違いますが、金属精錬に伴う鉱滓(sludge)を溜めるという意味では、上記鉱滓ダムと同じものかと思います。
【参考】川の日記(2010年10月6日/動画あり)


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2011年3月11日、日本では、東日本大震災で「大谷鉱山跡地堆積場」(宮城県気仙沼市)が液状化したところへ津波が押し寄せ、引き波とともに、ヒ素を含む鉱滓が港にまで流れました。
震災後、市内の井戸水などからヒ素が検出されましたが、気仙沼市ではこれを流出した鉱滓とは無関係としています。
堆積場管理会社の親会社・JX日鉱日石金属も「鉱山保安法に基づく排水基準(0.1mg/L)を上回りましたが、人の健康に影響を与えるほどのものではありません」としています。
【参考】「大谷鉱山跡地堆積場からの鉱滓の流出について」(JX日鉱日石金属


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鉱滓ダムが事故を起こしたわけではありませんが、旧神岡鉱山岐阜県飛騨市)にも大きな堆積場があります。
鉱石に含まれるカドミウムにより、神通川流域にイタイイタイ病(1968年日本初の公害病認定)などの多大な被害を及ぼした鉱山です。


カドミウムで汚染された農地の復元事業が完了したのは、開始から33年後、今年の3月末です。

【記者コラム:越中春秋】終わりではない

(2012年3月27日付中日新聞
 イタイイタイ病の原因となったカドミウムに汚染された農地の復元事業が今月末で完了し、十七日に開かれた完工式では、農地が戻った喜びと公害を繰り返さないことを誓う思いで包まれた。しかし、事前に取材した農家の男性によると、復元した農地は土に栄養がなく肥料代が約二倍に。「食用米が再び作れる喜びはあるが、復元後もまだまだ困難が続く」と複雑な心境を語ってくれた。
 土壌汚染は、復元が完了しても「めでたしめでたし」で終わるような単純な問題ではない。それでも「次に農業をする人のために、わずかでも手をかけて土の力を戻したい」と前向きな男性の言葉に力強さを感じた。(山田晃史)


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冒頭に書いた、旧尾太鉱山廃水が目屋ダムへ流出した事故の、新聞報道(Web)をメモ。
インターネット上では、地元の東奥日報陸奥新報のほか、毎日、読売、産経に記事がありましたが、朝日、日経、時事などの記事はまだ見かけません。

■廃水流出:目屋ダムに 旧尾太鉱山の処理ポンプ停止「水質に影響ない」 /青森

(2012年4月17日付毎日新聞地方版)
 15日午後4時45分ごろ、西目屋村砂子瀬の旧尾太(おっぷ)鉱山の廃水を処理している木戸ケ沢処理施設のポンプ3台がすべて停止し、未処理の廃水が下流の目屋ダム(同村)へ流出した。流出量は毎時48トンで、停止は17日以降になる見込み。廃水にはマンガン亜鉛など微量の金属を含むが、排水基準を満たしており、水質や環境への影響はないという。
 県商工政策課によると、廃水はピットにためて土砂を沈殿させ、ポンプでくみ上げて処理する。ピット内に土砂が大量にたまり、土砂が入り込んだポンプ1台が停止。予備の1台も故障したため、県は残る1台も停止してピット内の土砂の撤去を始めた。同課は「土砂は定期的に取り除いているが、今年は雪解け水が多く、流れ込む量が多かったのでは」と話している。
 同課の16日未明の水質検査で、廃水1リットル中のマンガン3・61ミリグラム(排水基準=10ミリグラム以下)▽亜鉛0・82ミリグラム(同5ミリグラム以下)▽鉛0・01ミリグラム未満(同0・1ミリグラム以下)で、いずれも排水基準を満たしていた。

■旧尾太鉱山廃水流出:基準超す鉛 目屋ダムへの流出量、毎時18トンまで減少 /青森

(2012年4月18日付毎日新聞地方版)
 西目屋村砂子瀬の旧尾太(おっぷ)鉱山から未処理の廃水が目屋ダムに流出している問題で、県が行った16日午後の調査で、廃水に含まれる鉛が排水基準を超えた。
 県商工政策課は「目屋ダムで希釈されるので、ただちに環境に影響は出ないのではないか」としている。
 県によると、16日午後5時半にピット付近の廃水を検査したところ、廃水1リットルあたりの鉛が0・3ミリグラム検出され、排水基準(同0・1ミリグラム)を超えた。マンガン7・37ミリグラム(同10ミリグラム)、亜鉛1・44ミリグラム(同5ミリグラム)は基準以下だった。
 県は停止したポンプ3台のうち1台を16日午後に起動して廃水処理を再開したため、流出量は毎時18トンに減少したが、流出は続いている。【酒造唯】

■旧尾太鉱山の未処理廃水再び流出

(2012年4月19日付東奥日報
 西目屋村にある旧尾太(おっぷ)鉱山の廃水処理施設からマンガンなどの重金属を含む未処理廃水が流出した問題で、県は19日午前、施設からの流出が再び始まり、目屋ダムに流れ込んでいる−と発表した。流出量は1時間当たり36立方メートル。