人のふりを見たか

東日本大震災後直後からしばらくの間、さまざまなメディアに、大量・雑多な情報が一気に流れました。
その流れに翻弄されつつ思ったのは、真偽不明な情報の洪水って、とにかく精神衛生上よくないということでした。


あたふたしちゃうんですよ。人間ができてないから。どうしても感情が大きく揺れる。


大災害や戦争などで普通の生活がどんなにかき乱されても、市民は、断固として、できる限り、精一杯普通に生活しなくちゃいけません。それが生きるってことですもの。


そこで、震災の翌々日ぐらいに、情報の出納に関して、ざっと「心がける」ことを決めました。心の中で。
有益な情報を邪魔しないためとか、被災者の方々の心情に配慮して、とかだったらかっこいいんですが、あくまで自分が正気を保つための心がけでした。いっぱいいっぱいだったので。

  1. 何か新しい情報に触れたら、なにはともあれ、判断を保留する。人に話さない。
  2. できる限り一次情報を確認する。
  3. 引用者が意図的な改変やトリミングをしていないかを見る。
  4. 信用できる情報と思ったら、それを他人に話して何かの役に立つか、3回ぐらい自分に問う。
  5. 役立つと思ったら、なるべくオリジナルに基づいて、人に話す。
  6. おいそれと理解できない内容だったり、検証するヒマがなかったら、判断保留のままにする。


こうして書いてみると、結局、見聞きしたものに脊髄反射して行動しないようにした、だけのことでしたね。
それでもある程度役立ちましたよ。保留してる間に我に返ることもしばしばあったし。


命に関わる緊急時には即時の判断が必要ですが、自分は物質的には普通に暮らせる状況でしたから、まあこれでよかったかと。
それでも能力不足ゆえ、いらんことを口走ったかもしれないけど。


特にtwitterでは、役立ちそうな情報もたくさんあった一方、デマもたくさん目にしました。
多くは善意に基づくものでしたが、中には嫌悪に基づくものがありました。


これは辛かったですね。人の心の裂け目を見るようで。
明らかなヘイトスピーチは論外として、そこまで行かなくても「あなたもですか」という場面がけっこうありました。


どうも、「前々から嫌いな人」に対する悪口(ネガティブな情報)が回ってくると、「ほらやっぱり!」という気持ちになって、つい言い広めてしまうみたいです。
人間、なかなかニュートラルにはなれないんですね。

そこで教訓:「嫌いな人への悪口は、8割引きで聞け」


しかし、かくいう私も、同じようなことをしそうになりました。



2011年4月22日朝日新聞の「天声人語」は、「東電本社×(福島第一原発事故の)現場」を「(第二次世界大戦の)大本営×前線」になぞらえた話でした。
本部と現場の温度差を指摘し、ついでに現政権をいさめる、みたいな。


実はこれを読む前、twitterで「(朝日新聞NHKなどの)大手メディアには、福島第一原子力発電所から数十kmの範囲内に立ち入ってはいけないという社内規定がある」という「噂」を目にしていました。 →参考:togetter「福島原発の40キロ圏内に立ち入るな(某テレビ局の社内規定)」


この「噂」の後にこの「天声人語」を読んで、正直なところ、一瞬、「現場に行かない自称ジャーナリストが何を言う」と、冷ややかな気持ちになりました。
勢いで、あやうく人に話すところでしたよ。


朝日新聞は好きでも嫌いでもないですが、報道に関しては普段から、現場へ行かない人はジャーナリストを自称してほしくないと思っています。(現場へ行っただけでジャーナリスト、じゃないのは、言わずもがな。)
そのへんが、私の落とし穴でした。


朝日新聞の場合は、相手が「社内規定」ですから、一次情報を当たることができません。
一応、新聞社に問い合わせましたが、お返事はいただけませんでした。思えば、企業人としては、内規を気安く外部にしゃべる方がどうかしてますし。
したがってこれは今も判断保留です。「社内規定がある」は真偽不明だということは、明記しておきます。