「お客様は神様です」

先日、だんさんがザッピングしてたテレビにたまたま三波春夫が映り、ちょうど『俵星玄蕃(たわらぼしげんば)』*1 の大詰めあたりだったので、見させてもらいました。 →YouTube「俵星玄蕃フルバージョン」


普段は Alternative Rock とでも言うのか、そんな音楽主体に聴いてますが、三波春夫も好きです。
ええ、身近に理解者はいません。


もともと謡曲浄瑠璃浪花節といった「語り物」が好きなのと、唯一彼にしかできない芸に対する尊敬もあります。ジャンルを問わず、一流の芸は尊敬します。基本的にめでたいもの、明るいものが好きだ、というのも大きいかもしれません。


そういえば、うちの祖母も三波春夫のファンでした。母は馬鹿にしてましたけど。
祖母の場合はほとんど恋で、テレビで見るたびぽっと頬を染めてましたっけ。*2 かわいいおばあちゃんでした。
ぜひ公演を見に行きたかったんだけど、祖母は早くに亡くなってしまったし、つきあってくれる友人なんて誰もいなかったし。今思えば、一人ででも行っておけばよかった。


三波春夫と言えば


   お客様は神様です

という台詞が有名です。
「お金を払ってくれるお客様は、神様みたいにありがたいものだ」って意味だなどと思っちゃいけません。
「会場に来てくれたお客様を神様と思い、神様に奉納するような心でうたう」という意味なんですと。*3


古来日本では、歌舞音曲は神仏に捧げるものでした。それが徐々に人間に見せる芸能に変わってきたわけです。その名残は、お神楽などの奉納芸の形で今も見ることができます。


たとえば奈良・興福寺の東金堂で行われる「塔影能」。舞台は東金堂の仏様に向かって設営され、舞台正面に観客席はありません。ヒトは脇からそっと拝見するだけで、拍手も禁止です。
イマドキは、有名社寺でも、神殿や金堂を背にコンサートが行われたりしますが、それだと神仏は単なる舞台装置ですね。


三波春夫は、かつて人々が歌舞音曲を神様に奉納したごとく、だいじなお客様に向かって、まじめに歌曲を捧げた人だと思うわけです。
さらには、舞台に立って微笑むだけで、明るく美しく健全な、日本の原風景が立ち現れるような人であったとも思います。
そんな人、ほかに見たことありません。


江古田チャンチキ通りに御殿を建てたぐらいだから、お金が嫌いだったわけじゃないでしょうが、少なくとも、「お客様」を通して「お金」を拝んでいる人ではなかったと思います。

*1:赤穂浪士の討ち入りを題材にした歌曲。

*2:「もうちょっと背が高かったら言うことない」が口癖でしたな。

*3:確認のため検索したら、三波春夫オフィシャルサイト「『お客様は神様です』について」に詳しく書いてありました。ご参考。